この物語は、雑穀の魅力について正しく、わかりやすく広めるために生まれた、雑穀の真実に挑戦する信実のヒューマンドラマです。雑穀の有資格者を中心に、皆様から寄せられた雑穀にまつわる疑問についての答えを探していきます。
グレオ
「ふむふむ、なになに。はったい粉、麦こがし、おちらし、香煎も同じ粉のことかなぁ。。。」
ミレイ
「あれ、どうしたの、大麦の粉のことしらべてるの? それって炒った大麦の粉のことだけど、いろいろな名前があっておもしろいよね。」
グレオ
「そうなんだ。実家の近くの大麦畑もだんだんと実ってきたから、大麦についてちょこっと調べているんだ。粉の呼び方がたくさんあって難しいよ。」
ミレイ
「その大麦の粉のことなんだけど、最近、とっても興味深い研究データが発表されたので聞いてくれる?」
グレオ
「おっ、いいね、どんな研究?」
ミレイ
「それはね、2021年秋に Journal of Cereal Science に掲載された『高脂肪食を与えたマウスの脂質代謝と腸内発酵に及ぼす焙煎大麦粉の影響』って論文。大妻女子大学と農研機構の共同研究で、大麦研究情報サイトの “大麦ラボ” で紹介されていたわ。」
グレオ
「ほー、腸内発酵に及ぼす焙煎大麦粉の影響かぁ、、どのような研究?」
ミレイ
「大麦は焙煎すると、水溶性食物繊維のβ-グルカン量は変わらずに分子量が低下したんだって。また焙煎することで難消化性でんぷんの量が増加することもわかったのよ。それで、マウスでの研究結果なんだけど、焙煎した大麦粉の摂取の方がより腸の中の短鎖脂肪酸量が増えたのよね。簡単に言うと、『焙煎した大麦粉は、未処理の大麦粉よりも短鎖脂肪酸を増やす作用が強く、プレバイオティクス効果による脂質代謝の改善に寄与する可能性が示唆された。』って内容ね。」
グレオ
「え~と、短鎖脂肪酸って、何酸? プレバイオティクスって何ザウルス?」
ミレイ
「短鎖脂肪酸は酪酸や酢酸、プロピオン酸など、腸内細菌が作ってくれる有機酸のことね。腸の細胞に重要で、抗炎症作用や免疫作用など、腸内環境の改善にとても役立っているのよ。プレバイオティクスって、β-グルカンやオリゴ糖など、腸内細菌にとってのエネルギー源で、腸の健康につながる有用な難消化性食品成分のことね。」
グレオ
「そーなのか。焙煎した大麦粉の方が、生の粉よりもその酸パワーが強くなるのか。」
ミレイ
「そのとおりよ。」
グレオ
「でも、大麦粉って、あんまり見かけないよね。小麦粉はどこにでもあるけど。」
ミレイ
「そうよね、大麦粉って使う機会があまりないからね。それで、国産大麦を使ってもらおうと、農林水産省から米麦改良普及協会って団体が委託を受けて、大麦粉に焦点をあてた『大麦粉普及プロジェクト』って事業が行われたのよ。その一環で、私のバイブルレシピ本『雑穀だいすき!』著者の松田美智子先生の他、ふだん小麦粉をたくさん使われている料理家さんたちによる『おうちで作る大麦粉料理』という、レシピ本も発刊されたの。」
グレオ
「ほー、なるほど、おうちでつくる大麦粉料理かぁ。プロジェクトによって、少しでも小麦粉から大麦粉に置き換えが進むといいよね。」
ミレイ
「ほんと、健康につながる大麦粉をもっと使ってもらいたいわ。それが、焙煎された大麦粉であれば、もっと良いかもって話よ。最近、輸入の小麦粉がどんどん値上げされてる中で、国産の大麦は在庫の余裕があるようなので、食料自給率の面からも “はったい粉” に置き換えしていくのもありかもね。」
グレオ
「そうだね、でも呼び方は、“おちらし”の方が上品な感じで好きだなぁ。。『こちらがおちらし料理でございます、さあ召し上がれ!』ってね。」
《解説》 大麦に含まれるβ-グルカンは、高熱で焙煎するほどに、量は変わらずに分子量が小さくなって作用が高まることが示唆されています。流通管理のしやすい焙煎大麦粉の種類が増えると利用機会も増えていきそうです。食材の中には熱を加えることで減少してしまう栄養素もありますが、雑穀には加工することによる栄養効果の高まり、複数の種類の雑穀をブレンドすることによる機能性の相乗効果など、まだまだ栄養学的にも未知の可能性を秘めた食材と思います。
参考サイト
麦ラボ情報発信拠点『大麦ラボ』
大麦粉普及プロジェクト
紹介書籍・雑穀
日本雑穀協会 監修, 松田美智子 著 (2008)「雑穀だいすき! -小粒でパワフル、おいしいレシピ81品」柴田書店
大麦粉普及プロジェクト 著 (2022)「おうちで作る大麦粉料理」小学館
amazon『はったい粉』掲載ページ
登場人物紹介
グレオ
神奈川県出身、文学部の大学2年生。趣味は映画観賞と食べること。スマホが離せない少し優柔不断な次男坊。ミレイはカフェのバイト仲間。
ミレイ
料理と読書、そして雑穀が大好きな、東北の中山間地出身の女子大家政学部の3年生。雑穀エキスパート認定者。責任感が強く、負けず嫌い。