この物語は、雑穀の魅力について正しく、わかりやすく広めるために生まれた、雑穀の真実に挑戦する信実のヒューマンドラマです。雑穀の有資格者を中心に、皆様から寄せられた雑穀にまつわる疑問についての答えを探していきます。
ミレイ
「グレオくん、ソルガムって知ってる?」
グレオ
「知ってるよ、ノーベル文学賞を受賞した中国の莫言(モー・イェン)さんの代表作「赤い高粱(コウリャン)」のコウリャンと一緒だよね。映画にもなってるし。背丈以上の高さのある、トウモロコシにも似ている穀物だよね。」
ミレイ
「すごーい!そのとおりよ。」
グレオ
「当たり前だよ、一応、文学部だからね。それで、ソルガムがどうかしたの?」
ミレイ
「実は、ソルガムって、いろいろな呼び方があって、困っているの。一般的には、タカキビと呼ばれているんだけれど、和名は、食品成分表にも掲載されているモロコシなのよ。そして、中国ではコウリャンでしょ。英名はソルガムのほかにも、グレートミレットやインディアンミレットとも呼ばれてたし、他に、ソルゴー、マイロなど、いろいろと呼び方があるのよ。また長野市の活動では、信州産ソルガムと呼んでブランディングも始まっているわ。」
グレオ
「ふ~ん、そうなのか~。」
ミレイ
「それでね、ホワイトソルガム、白タカキビの勉強会に行ってきたの。今、グルテンフリー食材としても注目されていて、試食もあってとてもおいしくて、クセのない味でいろいろなお料理に使いやすそうだったわ。アメリカ産のソルガムの普及に取り組むアメリカ穀物協会さんでは
グレオ
「なるほど、ソルガムきびか。白タカキビは、ホワイトソルガムきびだね。でも、同じ作物で呼び方がそれだけ多いと、メニューや商品の名前をつける時に迷いそうだね。」
ミレイ
「それが今、悩みどころなのよ。レシピを作るときも、原料産地の違いで、同じメニューでも原材料の呼び方を変えたりしてるの。」
グレオ
「モロコシって名前もトウモロコシと間違えられやすいよね。」
ミレイ
「そうなのよ。でも、呼び方が似ているのは、理由があるの。トウモロコシって、モロコシより後に日本に入ってきた作物なのよ。」
グレオ
「え~、古くからあるイメージだけど、そうなんだ。」
ミレイ
「トウモロコシが日本に来たのは、16世紀頃かな。モロコシは中国から伝わって、14世紀の室町時代には広く栽培されていたようなの。昔は、外国から来たものには、何でも唐(トウ)という字が付けられることが多く、つまり、外国から入ってきたモロコシに似た作物だから、前にトウを付けて、トウモロコシになったのよ。」
グレオ
「へー、唐+モロコシね。」
ミレイ
「実は、元をたどれば、モロコシも外国からきたキビのような作物という意味で、漢字では “唐黍” になるのよ。さらにいうと、モロコシそのものの名前も、古い中国に対する呼び方で “唐土” からきているの。」
グレオ
「モロコシの漢字って、トウキビ、トウドって呼んじゃいそうだね。まとめると “唐土” は黍のような作物で “唐黍”、トウモロコシは、唐から来た唐黍で “唐唐黍”、なんか麻雀みたいでややこしいね。あー、わかんなくなっちゃった。」
ミレイ
「そう、唐唐黍は変なので、古い中国の国名で、漢と分ける意味で使われている “蜀漢” から、別の黍という意味でモロコシには “蜀黍” の漢字があてられてることがあるの。それで、黄金色の実が美しく並んでいるという由来がある “玉黍” の文字を合わせて、トウモロコシは “玉蜀黍” と表記されるようになったのよ。」
グレオ
「へ~おもしろいね。でも、モロコシ、トウモロコシの漢字、読み書きできない人多いだろうなあ。スマホで変換だったらすぐだけど。」
ミレイ
「また、沖縄では、モロコシのことは、トーナチンって呼ばれているの。」
グレオ
「トーナチン?」
ミレイ
「そう、トーナチン。沖縄の首里地域では、トウモロコシのことを “ヤマトトーンチン“と呼んでたの。それで、逆に、唐がないトウモロコシなので、トーナチン。」
グレオ
「いろいろな呼び方があるね。」
ミレイ
「いっぱいあって、呼び方を整理しようと思ったら、眠れなくなって。。」
グレオ
「大変だー。」
ミレイ
「昔からの地域での呼び方は大切に伝承していきたいわ。でも、他の雑穀、ハトムギやシコクビエなども、昔はいろいろな呼び方があったけど、一般化された名前ができてわかりやすくなって、多くの人に知ってもらえるきっかけにもなったのよ。だから、普及のためには、わかりやすい統一呼称も必要と思うわ。」
グレオ
「そうだね、名称が統一されるようになるといいね。」
《解説》
モロコシ(ソルガム)は、食用、お酒、飼料、箒、バイオマスなど、その用途が多彩な分、様々な呼び方があります。そのため、呼称が違うことで、同じ作物でないと考えられることもあるようです。ハトムギもかつては、ヨクイ、トウムギ、チョウセンムギなどと呼ばれていましたが、明治に入ってから、ハトが好んで食べる様子から “ハトムギ” と呼称が統一されました。その結果、研究対象としても、消費する側としても統一感があってわかりやすく、広く普及につながったものと思われます。名前が統一されることで、もっと認知されることと考えています。
登場人物紹介
グレオ
神奈川県出身、文学部の大学2年生。趣味は映画観賞と食べること。スマホが離せない少し優柔不断な次男坊。ミレイはカフェのバイト仲間。
ミレイ
料理と読書、そして雑穀が大好きな、東北の中山間地出身の女子大家政学部の3年生。雑穀エキスパート認定者。責任感が強く、負けず嫌い。